AndGAMERは、「Void Gaming」「AIM1」「VIZARD CLUB」の3ブランドを中心に、日本製のカスタムコントローラーやPC周辺デバイスを開発・展開するゲーミングスタートアップだ。
各ブランドのSNS総フォロワーは9万人を超え、総販売台数は5万台を超える。「“理解(わか)ってる”プロダクトをデザインし続ける」ことをミッションに掲げ、“日本発のゲーミングライフスタイルカンパニー”となることを目指している。
約5年前、わずか18歳で同社の前身を立ち上げたのは、現在23歳のCEO・上森翼だ。
小6でビジネスを始め、高校生で年収100万円を得ていた上森はどのようにして同社を成長させてきたのか。その意外な半生と、ビジネスへの価値観、今後のビジョンを紐解いていく。
代表取締役CEO 上森 翼(かんもり つばさ・23歳)
中学時代からAmazonやメルカリで物販を行う。地元の高校を卒業後、アイシン精機(当時)に就職。就職約半年後に退職し、祖業となるVoid Gamingを創業。2021年には年間売上1億円を突破。2022年3月に事業を法人化し、AndGAMER株式会社を設立。一番好きなゲームは「COD:BO2」と「レインボーシックス シージ」。休日はジムかサウナに行ったあと、ファミレスに行くのがブーム。
里親、そして母と団地で暮らした幼少期。FPSが人生を変えた
──ゲームに興味を持ち始めたのは何歳ごろですか?
少し記憶が曖昧ですが、小5〜6でFPSを始めるまでは、外遊びが好きな普通の子どもでした。
愛知県東郷町で生まれ育ったぼくの家庭環境は少し複雑で、幼少期は里親のもとで、小学生時代は母のもとで暮らしていました。
同じ団地の同級生たちと、近所に住むものづくり好きのおじいさんの家で、発泡スチロールや割り箸で飛行機をつくってよく遊んでいましたね。
長期休みに父と暮らす兄と姉に会いに行ったとき、兄のPS3でFPSをやらせてもらったんです。
それまでPSPやDSのアクションゲームしかやったことがなく、初めて「一人称視点のキャラクター操作で敵と戦う」体験をして、映像のクオリティとFPSの没入感に魅了されました。
自宅にインターネットが通った小学校高学年のころ、母にPS3を買ってもらい、『Call of Duty』などのFPSに没頭するようになりました。
── 中高生時代にビジネスをされていたそうですが、そのきっかけや内容を教えてください。
ガジェット系YouTuberの瀬戸弘司さんが好きだったのと、「もっとゲーム環境を良くしたい」という気持ちから自作PCに興味がありました。
小6のころ、自作PCのパーツをそろえるために、自宅にあったPCで物販ビジネスを始めたんです。ゲーム関連アイテムや、中国から仕入れたガジェット類をAmazonやメルカリで売って、そのお金で自作PCをつくりました。
── 物販ビジネスではどのくらいの収入を得ていたのですか?
中1の冬に母が病気になり、ぼくは一度児童養護施設に入り、中2の夏に父のマンションに住むことになったんです。
高1のとき、姉が一人暮らしをするのでぼくがその部屋を使うことになったのですが、その際にロフトベッドや、約30万円のテレビを自分で買えるくらいは収入を得ていましたね。年収にすると100万円前後だったのではないでしょうか。
19歳で「Void Gaming」創業── 初年度で年商1億円超えに
── 次に、ゲーミングデバイスブランド「Void Gaming」を立ち上げた理由を教えてください。
高校卒業後は大手自動車部品メーカーに就職しました。
その年の2020年11月に、PS5が発売されたんです。それまで、FPSをやるときは海外製のカスタムコントローラーを愛用していたのですが、PS5用はどこにも売られていなかった。そこで「なんとか自分でつくれないだろうか?」と考えたんですね。
海外のサイトで調べたところ、PS5の純正コントローラーの基板に穴を開け、はんだで配線を通せば背面ボタンの信号を取り出せるという情報を見つけました。実際に試してみると、無事に信号を読み取れて、PS5用のカスタムコントローラーが完成したんです。

制作費は1万円以下でしたし、手づくり感もありましたが、「これを商品として提供したら、自分以外のゲーマーも快適にFPSができるんじゃないか」と考えました。
その後会社を退職し、2020年12月に「Void Gaming」を立ち上げました。Shopifyに自社サイトを作り、PS5用のカスタムコントローラーを販売し始めたんです。
── 当時の上森さんは19歳でしたが、販売戦略などはどのように立てたのでしょうか。
中高生時代の物販ビジネス経験から、ゲーミングデバイスの需要は感覚的に分かっていました。しかもPS5用のカスタムコントローラーは市場になかったので、「必ずニーズがある」と確信していたんです。
販売戦略は、明確には立てていませんでしたね。eスポーツ選手やYouTuberの方々に製品を提供して使っていただいた以外は、目の前の制作に集中していました。
すると口コミで広まって、一時は注文が400件ほどたまり、新規受付を2カ月ほどストップしたことも。受付を再開した瞬間に、売上が一気に伸びました。
PS5という新しい機種だったことと、コロナ禍の巣ごもりニーズもあり、初年度で年間売上1億円を超えることができました。
“ゲーミングデバイス”のニッチ市場で2億円調達
── AndGAMER株式会社を設立した経緯を教えてください。
本当は2021年の時点で法人化したかったのですが、ぼくが未成年だったため法律上できなかったんです。親権者の同意があれば可能だったはずですが、家庭環境的に難しかったので、2022年3月、20歳の誕生日に法人化しました。

アルバイト経験もなく、法的手続きは大変でしたね。税理士さんにはサポートしてもらいましたが、ぼく自身が把握していないことも多く、初年度は税金をかなり余分に支払っていたと思います(笑)。
── 現在3つのブランドを展開していますが、その戦略を教えてください。
「Void Gaming」はPlayStation系の競技用高性能カスタムコントローラー、「AIM1」はFPSゲーマー向けのPC周辺機器、「VIZARD CLUB」はNintendo Switchに特化しています。
海外向けの販売経路はこれから整備する段階ですが、現在もSNSや動画で、海外ユーザーの方から「すごくいい」という声をいただきます。
現時点では海外からの注文は、送料と関税を合わせてプラス1万円ほどかかるのですが、それでも月10数件の注文がありますね。今後は、より多くの海外ユーザーに届けられるよう体制を整えていきます。
── 事業を成長させるうえで、大切にしている価値観はありますか?
AndGAMERのメンバーは全員がゲーマーです。
だからこそユーザー視点で考えることができるし、「中途半端なものは世に出さない」「自分たちが使って満足できるものを」という価値観を大切にしています。

デバイスを手に持ったときの感触や、パッケージを含めたデザイン、SNSでの見せ方まで、どうしたらユーザーに「ほしいな」と思ってもらえるかを考え抜きます。
特にデザインは、「ここを2ミリずらしてください」「このテキストをもう少し左に」といった細かい調整を何度も行いますね。
ゲーマーの日常をデザインする、“日本発のゲーミングライフスタイルカンパニー”へ
── “日本発のゲーミングライフスタイルカンパニー”を目指す理由を教えてください。
まずはデバイスに力を入れ、ユーザーの皆さんに満足してもらえる製品を提供していきますが、将来的には「ゲーマーの日常全体をサポートしたい」という思いがあります。
デバイスを超えて、アパレルやインテリア・フードまで、ゲーマーとしてのライフスタイル全体に満足してもらいたい。自分たちがゲーマーだからこそ、そうした理想があるんです。
── 2025年8月には渋谷に直営店「AndGAMER Store」がオープンし、9月からは中京大学との共同研究がスタートするなど、新たな挑戦が続いています。
渋谷の直営店は、初日に人気ストリーマーのゆきおさんが一日店長を務めてくださるなどし、1週間で100〜200名のお客さまが来てくださいました。

中京大学(愛知県名古屋市)との共同研究はメンバーから提案があった企画です。日本にはゲーミングデバイスメーカー自体が少ないので、デバイスを学術的に研究した事例も十分になかったんですね。
2026年末には、研究成果を反映したマウスを「AIM1」から発売予定なので、ユーザーの皆さんにもきっと満足していただけると思います。
── 現在採用も強化されていますが、AndGAMERの組織カルチャーや、採用で求める人物像について教えてください。
AndGAMERは、階層のないフラットな組織です。社内ではメンバー同士の距離が近く、ゲームに関して気軽に意見交換ができますし、いいアイデアがあれば年齢や経験に関係なく採用します。メンバーが、やりたいことを積極的に形にできる環境をつくりたいと思っているんです。
採用で求めているのは、既存の製品の枠を超えて考えられる方です。「こういうゲーミングチェアがあったら集中できそう」「こんなマウスがあれば面白いよね」といった、ユーザー視点でこだわりを持ってアイデアを出せる方を歓迎します。
メンバーの平均年齢が20代と若いぶん、先導して主体的に動ける熱量を持った方と一緒に働きたいですね。
── 上森さんが目指すブランドの未来像と、5年後のビジョンをお聞かせください。
AndGAMERは、“理解(わか)ってる”プロダクトをデザインすることを大切に、自分たちがゲーマーとして心から満足できるものをつくり続けています。

5年後には、日本のゲーマーにとってなくてはならない存在になることが目標です。大手ゲームメーカーと肩を並べられるくらい、「AndGAMERの製品なら間違いない」と思ってもらえるブランドに育てたいですね。
ぜひ今後の動きにもご注目ください!